SBTiとは?認定取得の手順・費用・中小企業版SBTの活用方法をわかりやすく解説

「取引先からSBT認定の取得を求められた」「SBTiとSBTの違いがよくわからない」「中小企業でも取得できるのか知りたい」。こうした疑問を持つ担当者が、日本でも急増しています。

2025年10月時点で、SBT認定の取得またはコミットした日本企業は2,000社を超え、世界でも有数のSBT先進国となっています。その背景には、大手企業によるScope3削減の本格化とともに、サプライヤーである中小企業への取得要請が急速に広がっていることがあります。

本記事では、SBTiの基本的な仕組みから認定取得の具体的な手順・費用、中小企業向けの簡略ルート(SMEルート)の活用方法まで、2025〜2026年の最新情報を踏まえて詳しく解説します。

目次

SBTiとSBTとは?基本的な仕組みをおさらい

SBT・SBTi・SBT Servicesの違い

「SBT」「SBTi」「SBT Services」は似た名称ですが、それぞれ意味が異なります。混乱しやすい用語を先に整理しておきます。

用語意味
SBT(Science Based Targets)科学的根拠に基づく温室効果ガス削減目標そのもの。パリ協定(1.5℃目標)と整合した、企業が設定する定量的な削減目標を指す
SBTi(Science Based Targets initiative)SBTの普及・認定を行う国際的なイニシアチブ(非営利団体)。CDP・UNGC・WRI・WWFの4機関が共同設立。目標の審査・認定・公表を行う
SBT Services2025年6月より審査業務を担う独立組織。SBTiは基準策定に専念し、審査実務はSBT Servicesが担当する新体制に移行した
コミットメント(Commit)「2年以内にSBT目標を設定する」と宣言すること。任意だが、宣言するとSBTiのウェブサイト等で公表される
Near-Term SBT(短期目標)2030年前後を目標年とした、Scope1・2・3の削減目標。1.5℃基準では、Scope1・2を毎年4.2%以上削減することが目安
Net-Zero SBT(長期目標)2050年以前にネットゼロに到達することを目指す長期目標。Near-Term SBTの設定が前提となる

2025年6月より、SBTiは基準策定に専念し、審査業務は独立した組織「SBT Services」へと移管されました。申請はSBT Servicesの検証ポータルから行う新体制に変わっています。最新の手順を確認する際はSBT Servicesの公式サイト(sbti.services)を参照してください。

SBTiが設立された背景

2015年のCOP21で採択されたパリ協定は、地球の平均気温上昇を産業革命前比1.5℃以内に抑えることを世界共通の目標として掲げました。この目標を達成するには、2030年までに世界全体のGHG排出量を約半減させ、2050年までにネットゼロに到達することが必要とされています。

しかし、企業が自主的に掲げる「ネットゼロ目標」はそれぞれ異なる定義・基準で設定されており、科学的な根拠があるかどうかを外部から判断する手段がありませんでした。この問題を解決するために、CDP・UNGC・WRI・WWFの4機関が共同で設立したのがSBTiです。

SBTiとGHGプロトコルの関係

SBTiはGHGプロトコルに準拠したScope1・2・3の排出量算定を申請の前提としています。Scope3が全体の排出量の40%を超える場合(多くの製造業・小売業がここに該当)、Scope3の削減目標設定も必須となります。このため、SBTi認定の取得はGHG算定体制の整備と一体的に進める必要があります。

日本企業のSBTi参加が急増している理由

日本企業のSBTi参加が急増している理由

顧客企業からのサプライヤー要請が最大の要因

2025年に最も顕著な変化として挙げられるのが、大手企業によるサプライヤーへのSBT目標設定要請です。大手企業が自社のScope3削減を本格化させたことで、その取引先である中小・中堅企業に対して「SBT水準での削減目標を設定・開示してほしい」という要求が急速に広がっています。

取引継続の条件としてSBT認定取得が求められるケースも出始めており、「任意の取り組み」から「事業上の必須対応」へと変わりつつある状況です。

CDP評価・ESG投資家対応での必要性

CDP(気候変動スコア)において、SBT認定の有無は評価項目に含まれています。機関投資家によるESG評価においても、SBT認定はスコアアップに直結するため、上場企業や上場準備中の企業を中心に取得の動機が強まっています。

東証プライム上場企業の約2割がSBT認定またはコミットメントを行っている状況で(2025年10月時点)、今後もその割合は高まることが見込まれます。

日本企業のSBT参加数は世界トップクラス

SBTiによると、2025年10月時点で日本企業のSBT認定・コミット数は2,000社を超え、国別参加数で世界トップクラスとなっています。中でも中小企業の参加数が急増しており、サプライチェーン全体への波及が着実に進んでいます。

SBTi認定の種類と目標設定の基準

Near-Term SBT(短期目標)とNet-Zero SBT(長期目標)

SBTi認定には「短期目標(Near-Term SBT)」と「長期目標(Net-Zero SBT)」の2種類があります。多くの企業はまず短期目標の認定取得から着手します。

  • Near-Term SBT:2030年前後を目標年とした削減目標。Scope1・2は1.5℃基準(毎年4.2%以上の総量削減が目安)。Scope3が全体の40%超の場合はScope3目標も必須
  • Net-Zero SBT:2050年以前のネットゼロ到達を目指す長期目標。Near-Term SBTの設定が前提。残余排出量の炭素除去(DAC・植林等)も組み合わせる

2025年9月にSBTi Corporate Near-Term Criteria V5.3が公表され、目標設定基準が更新されています。また、企業版ネットゼロ基準 V2.0のドラフトが策定中(2025年3月・11月にドラフト公表)で、今後の長期目標の考え方にも変化が生じる見込みです。

削減目標として認められないもの

SBTiでは、以下の手段による排出量削減はSBT達成としてカウントされません。

  • 他社のカーボンクレジット(J-クレジット・海外ボランタリークレジット等)の購入による相殺
  • 削減貢献量(自社製品・サービスが他社の排出削減に貢献した量)のカウント

あくまで「自社の排出量を物理的に削減すること」がSBT達成の条件です。クレジットの活用は「残余排出量のオフセット」として補完的に位置づけられており、削減目標の達成手段にはなりません。

大企業向けSBTと中小企業向けSBTの違い

SBTi認定には、通常の大企業向けルートと、中小企業向けに簡略化されたSMEルートの2種類があります。申請要件・費用・手続きがいずれも大きく異なります。

比較項目大企業向けSBT(標準ルート)中小企業向けSBT(SMEルート)
対象ScopeScope1・2・3(全Scope必須)Scope1・2(Scope3は算定・コミットのみ)
目標設定方式絶対量削減方式または原単位方式(科学的根拠に基づく計算が必要)事前定義された削減目標テーブルから選択(計算不要)
申請書類詳細な算定根拠・削減計画書類(英語)オンラインフォームへの回答(簡略化)
審査費用(2026年1月以降)Near-Term: 9,500USD〜(業種により異なる)金融機関: 14,500USD売上500万ユーロ未満: 1,250USD売上500万ユーロ以上: 2,000USD
審査期間の目安数ヶ月(申請内容の複雑さによる)約1〜2ヶ月
認定後の報告義務年1回のGHG排出量・進捗開示が必要年1回の排出量・進捗の開示が必要(Scope1・2中心)
目標の再評価少なくとも5年ごと少なくとも5年ごと

中小企業向けSMEルートの最大の特徴は、Scope3削減目標の設定が不要(算定とコミットは必要)で、事前定義された目標テーブルから選ぶだけで目標設定ができる点です。大企業のように複雑な科学的計算を自社で行う必要がなく、準備期間と費用を大幅に抑えられます。

中小企業向けSBT(SMEルート)の適用条件

中小企業向けSMEルートを利用するには、以下の条件をすべて満たす必要があります。金融機関と石油・ガス企業は規模にかかわらず専用ルートとなり、SMEルートは利用できません。

条件内容
必須条件①Scope1およびロケーションベースのScope2の合計排出量が10,000 t-CO₂e未満であること
必須条件②金融機関(FI)および石油・ガス(O&G)セクターに属していないこと
必須条件③SBTiがセクター別に設けた固有の基準を使用して目標設定をする必要がないこと
規模条件(3つ以上該当すること)①従業員250人未満②売上5,000万ユーロ(約80億円)未満③純資産2,500万ユーロ(約40億円)未満④FLAGセクターに属していない

日本の中小企業法における中小企業の定義(製造業:従業員300人以下 など)とSBTiのSME定義は異なります。SBTiの基準で自社が該当するか、申請前に必ず確認してください。

SBTi認定取得の手順【SMEルート版・7ステップ】

SBTi認定取得の手順【SMEルート版・7ステップ】

中小企業(SMEルート)での認定取得は、以下の7ステップで進みます。申請からの認定までの目安は1〜2ヶ月程度です。

作業内容・ポイント
STEP 1アカウント登録SBT Servicesの検証ポータルにアクセスしアカウントを作成。企業情報(売上・従業員数・業種)を入力してSMEルート対象かを確認する
STEP 2GHG排出量の算定Scope1・2の排出量を算定(GHGプロトコル準拠)。Scope3も算定してコミットする必要があるが、削減目標の設定はScope1・2のみで可
STEP 3削減目標の選択事前定義された目標テーブルから自社に適した目標を選択。基準年(2018〜2023年度から選択)と削減率(2030年までに42〜50%削減など)を確定させる
STEP 4オンライン申請フォームへの入力ポータルの申請フォームに必要情報を入力。SME一般情報・目標選択・排出量データの3パートに回答
STEP 5契約・費用支払いSBT ServicesとのT&Cに署名。請求書受領後、支払いの証明を送付(支払い確認後に目標が正式登録される)
STEP 6認定・公表認定後、SBTiウェブサイト(毎週木曜更新)とWe Mean BusinessサイトにSBT目標が公表される
継続年次報告・5年ごとの目標再評価毎年Scope1・2排出量と進捗を開示。5年ごとに目標の妥当性を再評価し、必要に応じて更新申請

申請書類・コミュニケーション(フォーム・メール等)はすべて英語での対応が必要です。英語への不安がある場合は、国内のSBTi申請支援サービスを利用することを検討してください。

審査費用の最新情報(2026年1月改定後)

2026年1月5日より、SBTiの審査費用体系が改定されました。中小企業については、これまで規模によらず一律だった費用が、売上規模によって2段階に分かれる体系へと変更されています。

区分対象審査費用(USD)日本円換算目安
中小企業(SME)小規模直近決算売上が500万ユーロ未満1,250 USD約19万円
中小企業(SME)中規模直近決算売上が500万ユーロ以上2,000 USD約30万円
大企業(一般業種)金融・FLAG・石油ガス以外9,500 USD(Near-Term)約145万円
大企業(FLAG企業)森林・土地・農業セクター7,500 USD約115万円
大企業(金融機関)銀行・保険・証券等14,500 USD約220万円

上記費用はSBT Servicesへの審査費用のみ。日本円換算は2025年10月平均レートを参考に算出。為替変動により変わります。審査費用のほかに、算定・目標設定の社内準備費用やコンサルティング費用(外部委託の場合)が別途発生します。

審査費用以外にかかるコストとして、GHG排出量算定のための社内工数(または算定ツール費用)と、申請書類作成・英語対応のための工数または外部委託費用があります。コンサルティングサービスへの委託費用は企業規模により数十万〜数百万円が目安となりますが、初回認定取得に特化した比較的低価格なサービスも国内に増えてきています。

SBTi認定取得のメリット

メリット1:取引先・サプライヤー関係の強化

大手企業がScope3削減を要請する現在の流れの中で、SBT認定取得はサプライヤーとしての「脱炭素への本気度」を示す最も有力な手段のひとつです。取引継続・新規受注・選定時の評価において有利に働くケースが増えています。

メリット2:ESG評価・CDP対応での加点

CDPの気候変動スコアにおいて、SBT認定取得は「マネジメント」「リーダーシップ」レベルへの評価に貢献します。機関投資家によるESG評価でもSBT認定の有無は重視されており、資金調達・株主対応の面でもメリットがあります。

メリット3:社内の脱炭素経営の方向性を明確にできる

SBT目標を設定することで、漠然としていた脱炭素目標が「2030年までにScope1・2排出量を42%削減」といった定量的な社内指針に変わります。設備投資・エネルギー調達の意思決定基準として活用でき、担当者だけでなく経営層・各部門へのコミュニケーションツールとしても有効です。

メリット4:補助金・支援制度の加点要件への対応

環境省・経済産業省の一部の補助金・支援制度において、SBT認定がポイント加算の要件になっているケースがあります。今後、こうした制度との連携が一層強まることが想定されます。

認定取得前に準備すべきこと

準備1:Scope1・2の排出量算定を完了させる

SMEルートの申請には、GHGプロトコルに準拠したScope1・2の排出量算定が必須です。基準年(2018〜2023年度から選択)の排出量データが必要となります。環境省の無料Excelツールや国内SaaSを使って事前に算定を完了させておきましょう。

準備2:Scope3の排出量を概算算定しておく

SMEルートではScope3削減目標の設定は必須ではありませんが、排出量の算定とコミットメントは求められます。また、Scope3が全体排出量の40%を超える場合は削減目標も必要になるため、スクリーニング算定は事前に実施しておく必要があります。

準備3:社内承認と開示体制を整える

SBT認定後は、年1回のGHG排出量・進捗の外部開示が義務付けられます。経営層の承認を事前に取り付け、開示担当部門(IR・サステナビリティ部門等)との連携体制を整えておくことが重要です。認定後に「開示できない」という事態が生じると、認定が取り消されるリスクがあります。

準備4:英語対応または支援機関の選定

SMEルートの申請フォームとSBT Servicesとのやり取りはすべて英語です。社内に英語対応できる担当者がいない場合や、申請手続きへの不安がある場合は、国内のSBTi申請支援サービスの利用を検討することをおすすめします。認定取得率100%を謳う支援サービスも国内に複数存在します。

まとめ|2025年現在のSBTi対応の優先順位

SBTi認定は、取引先からの要請・CDP対応・ESG投資家対応という3つの観点から、日本企業にとって急速に重要性が増している取り組みです。本記事のポイントを整理します。

  • SBTiは企業の脱炭素目標がパリ協定(1.5℃)と整合しているかを審査・認定する国際イニシアチブ。2025年6月より審査業務はSBT Servicesへ移管
  • 中小企業(SMEルート)は、Scope3目標設定不要・事前定義目標の選択式・低コスト(1,250〜2,000USD)で取得できる簡略ルートが用意されている
  • 2026年1月の価格改定で、中小企業でも売上500万ユーロ以上は2,000USDへ引き上げ
  • 申請の前提として、GHGプロトコル準拠のScope1・2算定と経営層の承認・開示体制の整備が必要
  • 申請書類・やり取りはすべて英語。社内対応が難しい場合は国内支援サービスの活用も有効

まだSBT認定を取得していない企業でも、まずはGHG排出量の算定から始め、削減目標の検討を進めることが第一歩です。サプライヤーからの要請が来てから動き始めるのでは遅い局面も増えており、早期対応が企業価値の維持・向上につながります。

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