脱炭素経営を進める企業にとって、「Scope3(スコープ3)」の理解と排出量算定は避けて通れない課題になっています。Scope3とは、自社の直接排出(Scope1)や購入電力に伴う排出(Scope2)以外の、サプライチェーン全体にわたる間接的な温室効果ガス排出量のことです。
このScope3は全部で15のカテゴリに分類されており、それぞれ排出源や算定方法が異なります。本記事では、全15カテゴリの内容を一覧表でわかりやすく整理するとともに、自社にとっての重要カテゴリの特定方法や業種別の傾向、算定の進め方まで解説します。
Scope3とは?カテゴリ分類が必要な理由
Scope1・Scope2との違い
温室効果ガス(GHG)の排出量は、国際的な基準「GHGプロトコル」にもとづいて、Scope1・Scope2・Scope3の3段階に分類されます。
- Scope1:自社の事業活動による直接排出(工場のボイラー、社有車の燃料消費など)
- Scope2:購入した電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出
- Scope3:Scope1・2以外のサプライチェーン全体にわたる間接排出
Scope3はScope1・2と比較して排出源が広範かつ複雑であるため、算定の難易度が高いとされています。一方で、多くの企業においてGHG排出量の70〜90%以上がScope3に相当するとも言われており、実質的な脱炭素を実現するためには避けて通れない領域です。
なぜ15カテゴリに分けるのか
Scope3を15のカテゴリに分類しているのは、排出源の二重計上を防ぎ、企業間での報告の一貫性と比較可能性を確保するためです。GHGプロトコルによって定義された15カテゴリは、サプライチェーンの「上流(カテゴリ1〜8)」と「下流(カテゴリ9〜15)」に大別されます。
なお、15のカテゴリすべてを算定する義務はなく、自社の事業活動に関連するカテゴリのみを対象とすることが認められています。ただし、算定対象外としたカテゴリについては、その理由を説明することが推奨されています。
Scope3が企業に求められる背景
近年、CDP(気候変動情報の開示を求める国際NGO)やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、SBTi(Science Based Targets initiative)などの国際的な枠組みがScope3の開示・削減目標の設定を求めるようになっています。さらに日本では、有価証券報告書へのサステナビリティ情報開示が義務化されるなど、国内制度面でもScope3への対応が急速に求められるようになっています。
「任意の取り組み」から「事業継続のための必須対応」へと変化しつつあるScope3算定。まずは全体像を正確に把握することが、第一歩となります。
Scope3 カテゴリ一覧表(全15分類)

以下が、Scope3の全15カテゴリの一覧です。上流(カテゴリ1〜8)は自社が製品・サービスを生産・提供する前に発生する排出、下流(カテゴリ9〜15)は販売後に発生する排出を指します。
| 区分 | No. | カテゴリ名 | 概要 |
|---|---|---|---|
| 上流 | 1 | 購入した製品・サービス | 原材料・部品・消耗品などの調達に伴う排出 |
| 上流 | 2 | 資本財 | 設備・機械・建物などの取得に伴う排出 |
| 上流 | 3 | Scope1・2に含まれないエネルギー | 燃料の採掘・精製、送電ロスなど |
| 上流 | 4 | 輸送・配送(上流) | 調達物流(原材料の輸送)に伴う排出 |
| 上流 | 5 | 事業から出る廃棄物 | 廃棄物の処理・輸送に伴う排出 |
| 上流 | 6 | 出張 | 従業員の出張に使用する交通機関からの排出 |
| 上流 | 7 | 雇用者の通勤 | 従業員の通勤交通に伴う排出 |
| 上流 | 8 | リース資産(上流) | 自社が借りているリース資産の稼働に伴う排出 |
| 下流 | 9 | 輸送・配送(下流) | 出荷以降の物流(販売後の輸送)に伴う排出 |
| 下流 | 10 | 販売した製品の加工 | 中間財を加工・製造する工程での排出 |
| 下流 | 11 | 販売した製品の使用 | 消費者が製品を使用する際の排出 |
| 下流 | 12 | 販売した製品の廃棄 | 製品の廃棄・リサイクル処理に伴う排出 |
| 下流 | 13 | リース資産(下流) | 自社が貸し出しているリース資産の稼働排出 |
| 下流 | 14 | フランチャイズ | フランチャイズ加盟店の事業活動に伴う排出 |
| 下流 | 15 | 投資 | 出融資先・投資先企業の事業活動に伴う排出 |
出典:環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方」をもとに作成
上流カテゴリ(カテゴリ1〜8)の詳細解説
上流カテゴリは、自社が製品・サービスを生産する前の段階で他社が排出するGHGを対象とします。調達・物流・廃棄・従業員の行動など、幅広い活動が含まれます。
カテゴリ1|購入した製品・サービス
自社が報告年度に購入したすべての製品・サービスの製造・生産段階で排出されるGHGが対象です。原材料、部品、梱包資材、消耗品、外部委託サービスなどが含まれます。
多くの製造業・小売業において、Scope3全体の排出量のうち最大のシェアを占めるカテゴリです。サプライヤーへのGHGデータ提供依頼や、低炭素素材への切り替えが削減策として有効です。
カテゴリ2|資本財
自社が購入・取得した設備、機械、建物、IT機器などの資本財の製造段階で排出されるGHGが対象です。耐用年数にわたる排出量を報告年度の取得額に応じて按分して算定します。
工場の大規模設備投資や新築・改装が行われた年は排出量が大きくなる傾向があります。
カテゴリ3|Scope1・2に含まれないエネルギー関連活動
自社が購入・使用するエネルギー(燃料・電力・熱)のうち、Scope1・2に含まれない排出を対象とします。具体的には、燃料の採掘・精製・輸送過程での排出や、送電時のロス(送電ロス)などが該当します。
カテゴリ4|輸送・配送(上流)
サプライヤーから自社への原材料・部品の輸送(調達物流)に伴う排出が対象です。自社が輸送費用を負担する場合は算定対象となります。トラック・船舶・航空機などの輸送手段別の排出原単位を用いて算定します。
カテゴリ5|事業から出る廃棄物
自社の事業活動で発生した廃棄物を外部で処理する際の排出が対象です。廃棄物の種類(一般廃棄物・産業廃棄物)や処理方法(焼却・埋立・リサイクルなど)ごとの排出原単位を使用して算定します。
カテゴリ6|出張
従業員が業務目的で利用する交通機関(飛行機・新幹線・在来線・バス・タクシーなど)と宿泊施設からの排出が対象です。自社の車両や社有機を使用する場合はScope1に該当するため、外部交通機関の利用に限られます。
出張旅費の実績データや交通機関の利用記録をもとに算定します。
カテゴリ7|雇用者の通勤
従業員が自宅から職場への通勤に使用する交通手段(マイカー・電車・バスなど)からの排出が対象です。在宅勤務の普及により、コロナ禍以降は排出量が減少傾向にある企業も多くあります。
従業員アンケートによる通勤手段・距離・頻度の把握が算定の基本となります。
カテゴリ8|リース資産(上流)
自社がリースしている資産(オフィス・倉庫・車両・機器など)の稼働に伴う排出が対象です。ただし、リース資産での消費エネルギーをScope1・2で既に算定している場合は、カテゴリ8での算定は不要です(二重計上の回避)。
下流カテゴリ(カテゴリ9〜15)の詳細解説
下流カテゴリは、自社が製品・サービスを販売・提供した後の段階で発生するGHGを対象とします。消費者による製品使用から廃棄、投資先企業の活動まで、多岐にわたります。
カテゴリ9|輸送・配送(下流)
自社の製品が出荷された後、販売店・消費者へ届くまでの輸送に伴う排出が対象です。自社が輸送費用を負担しない場合(物流会社や小売業者が費用を負担する場合)も算定対象となります。
カテゴリ10|販売した製品の加工
自社が販売した中間財(半完成品・素材など)を、購入者(企業)がさらに加工・製造する工程での排出が対象です。最終消費者に直接販売している企業(BtoC)は、このカテゴリが算定対象外になることが多いです。
カテゴリ11|販売した製品の使用
自社が販売した製品を消費者・ユーザーが使用する際に排出されるGHGが対象です。電化製品・自動車・家電などのメーカーにとって特に重要なカテゴリであり、製品の耐用年数全体での排出量を算定します。
排出量は製品の省エネ性能と使用環境に依存するため、製品設計の段階からの低炭素化が最も効果的な削減策です。BtoC製造業ではScope3排出量の最大項目になるケースが多く見られます。
カテゴリ12|販売した製品の廃棄
自社が販売した製品が使用後に廃棄・処分される際の排出が対象です。廃棄方法(焼却・埋立・リサイクルなど)と廃棄物の量を把握して算定します。製品の長寿命化やリサイクル設計が削減に貢献します。
カテゴリ13|リース資産(下流)
自社が他者に貸し出しているリース資産(不動産・設備・車両など)の稼働に伴う排出が対象です。テナントへの省エネ設備導入支援やグリーンリース契約の普及が有効な削減策です。
カテゴリ14|フランチャイズ
自社がフランチャイズ本部として加盟店に提供するライセンス・ブランドのもとで運営される店舗の事業活動に伴う排出が対象です。フランチャイズ本部にとっては、加盟店の省エネ化・省CO2設備の導入支援が重要な削減策となります。
カテゴリ15|投資
自社が行う株式投資・債券投資・融資などの金融活動を通じて支援する投資先・融資先企業の事業活動から生じる排出が対象です。主に金融機関(商業銀行・証券会社・保険会社など)が算定対象となりますが、事業会社で投融資活動を行う企業も対象となります。
「ファイナンスド・エミッション(投融資先排出量)」とも呼ばれ、PCAF(金融向け炭素会計パートナーシップ)ガイダンスに基づく算定が推奨されています。2024年のIFRS S2改訂草案でもカテゴリ15の開示方法が議論されており、金融業界での重要度が高まっています。
自社に関係するカテゴリをどう特定するか

スクリーニングの考え方
15カテゴリすべてを精緻に算定することは現実的ではありません。まず「スクリーニング」と呼ばれる概算算定を行い、排出量の大きいカテゴリや削減ポテンシャルの高いカテゴリを絞り込むことが推奨されています。
スクリーニングでは、各カテゴリへの支出額(購買データ・経理データ)に業種別の排出原単位を掛け合わせる「支出ベース法」が手軽な手法として広く利用されています。
算定不要カテゴリの除外ルール
GHGプロトコルでは、自社の事業に関連しないカテゴリは算定対象外とすることが認められています。例えば、最終消費者に直接販売している企業はカテゴリ10(販売した製品の加工)が対象外になります。また、フランチャイズ展開をしていない企業はカテゴリ14が対象外です。
ただし、「関連性がない」と判断したカテゴリについては、その理由を明示することが報告基準上求められています。
まず取り組むべき「重要カテゴリ」の目安
業種を問わず、多くの企業で排出量が大きくなりやすいカテゴリとして、以下が挙げられます。
- カテゴリ1(購入した製品・サービス):製造業・小売業で特に重要
- カテゴリ11(販売した製品の使用):家電・自動車・電子機器メーカーで最大になりやすい
- カテゴリ4(輸送・配送・上流):物流ウェイトの高い業種で重要
- カテゴリ15(投資):銀行・保険・証券などの金融業界で中核となるカテゴリ
業種別|Scope3で特に重要になるカテゴリ
Scope3の重要カテゴリは業種によって大きく異なります。自社の事業特性を踏まえた上で、どのカテゴリに優先的に取り組むべきかを判断することが重要です。以下に業種別の目安をまとめました。
| 業種 | 主要カテゴリ | 特徴・理由 |
|---|---|---|
| 製造業 | カテゴリ1・11 | 原材料調達と製品使用時の排出が圧倒的に大きい |
| 小売・流通業 | カテゴリ1・4・9・11 | サプライチェーン全体の物流・製品使用が支配的 |
| 金融・保険業 | カテゴリ15 | 投融資先の排出量(ファイナンスド・エミッション) |
| IT・サービス業 | カテゴリ1・6・7 | データセンター電力、出張、通勤が主要排出源 |
| 建設・不動産業 | カテゴリ1・2・11 | 建材調達、設備投資、建物使用時の消費エネルギー |
| 飲食・食品業 | カテゴリ1・5・11 | 農産物調達、食品廃棄、製品の調理・使用 |
これらはあくまでも目安であり、自社の事業モデルや調達構造によって重要カテゴリは異なります。スクリーニングを通じて自社固有の状況を確認することが不可欠です。
Scope3カテゴリ別の算定方法の基本
基本式「活動量 × 排出原単位」
Scope3の各カテゴリの排出量は、次の基本式で算定します。
排出量(t-CO₂e)= 活動量 × 排出原単位
- 活動量:事業活動の規模を示す量(購入金額、輸送距離・重量、廃棄物量、出張距離など)
- 排出原単位:活動量1単位あたりのGHG排出量(環境省「排出原単位データベース」を参照)
環境省ガイドラインと排出原単位データベースの活用
算定にあたっては、環境省が公表している「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」と「排出原単位データベース」を活用します。これらは無料で公開されており、カテゴリごとの算定式と原単位が整理されています。
算定精度を高めるために(一次データ vs 二次データ)
排出量算定の精度は、使用するデータの種類によって大きく異なります。
- 一次データ(実測データ):サプライヤーから直接入手した電力消費量や燃料使用量など。精度が高いが、データ収集に工数がかかる
- 二次データ(推計データ):排出原単位データベースを用いた推計値。収集が容易だが、精度は一次データより低い
CDPスコアの向上やSBTi認定を目指す場合は、一次データの収集範囲を段階的に拡大していくことが求められます。まずは二次データを使った概算から始め、毎年精度を上げていくアプローチが現実的です。
Scope3の算定の5ステップ
実務でのScope3算定は、以下の5ステップで進めることが一般的です。
| ステップ | 作業内容 | ポイント |
|---|---|---|
| STEP 1 | 算定目的と範囲の決定 | CDPやSBTi申請、社内管理など目的で精度要件が変わる |
| STEP 2 | 重要カテゴリの特定 | 支出データをもとにスクリーニング。排出量の大きいカテゴリを優先 |
| STEP 3 | 活動量データの収集 | 経理データ・購買データ・物流データなどを整理 |
| STEP 4 | 排出量の算定 | 活動量 × 排出原単位(環境省DBを活用) |
| STEP 5 | 報告・見直し | CDP・有価証券報告書・統合報告書への記載。毎年改善 |
まとめ|カテゴリ一覧の把握が脱炭素経営の第一歩
Scope3の全15カテゴリは、上流(カテゴリ1〜8)と下流(カテゴリ9〜15)に分かれており、それぞれ排出源と算定方法が異なります。すべてを一度に精緻に算定する必要はなく、まずは全体像を把握した上でスクリーニングを行い、自社にとっての重要カテゴリを特定することが重要です。
Scope3算定への対応は、CDP・SBTi・IFRS S2など国際的な開示フレームワークへの対応だけでなく、サプライヤーとの関係強化や新たな削減機会の発見にもつながります。まずは本記事のカテゴリ一覧表を参考に、自社の重要カテゴリの見極めから着手してみてください。
