脱炭素経営を進めるうえで、近年とくに重要性が高まっているのが「間接排出」である。
多くの企業では、直接排出(Scope1)よりも、購入電力やサプライチェーン全体で発生する間接排出(Scope2・Scope3)が排出量の大半を占めている。
その一方で、間接排出は排出源が自社の管理外にあるため、把握や削減が難しく、対応が後回しにされがちでもある。
しかし、投資家や取引先、社会全体からは、企業がどこまで責任を持って排出量を管理しているかが厳しく問われる時代になっている。
本記事では、間接排出の基本的な考え方から算定方法、削減アプローチ、実践事例までを整理し、脱炭素経営において間接排出とどう向き合うべきかをわかりやすく解説する。
間接排出とは何か|直接排出との違いを正しく理解する
間接排出の定義と基本的な考え方
間接排出とは、企業の事業活動に関連して発生するものの、自社の施設や設備の中では直接排出されない温室効果ガスを指す。
代表的なものが、購入した電力や熱の使用に伴う排出、原材料の調達や物流、製品使用・廃棄段階で発生する排出である。
排出の発生源は企業の外部にあるが、企業活動が原因となって生じている点が特徴であり、その責任をどう管理するかが問われる領域となる。
直接排出(Scope1)との明確な違い
直接排出(Scope1)は、ボイラーや発電機、社用車など、自社が燃料を燃焼させることで発生する排出を指す。
一方、間接排出は、電力会社やサプライヤー、物流事業者など第三者の活動を通じて発生する排出であり、排出地点が自社の管理範囲外にある。
この違いにより、直接排出は自社の設備更新や運用改善で削減しやすいのに対し、間接排出は外部との連携や調達方針の見直しが不可欠となる。
なぜ間接排出が企業評価で重視されるのか
近年、企業評価において間接排出が重視される理由は、企業の実質的な環境影響の多くが間接排出に含まれるためである。
特にScope3では、総排出量の7割〜9割を占める企業も少なくなく、直接排出だけを削減しても全体最適にはならない。
投資家や取引先は、企業が自社だけでなくサプライチェーン全体に責任を持っているかを重視しており、間接排出への対応が企業姿勢を測る指標となっている。
脱炭素経営における間接排出の位置づけ
脱炭素経営において、間接排出は中長期的に最も重要なテーマの一つと位置づけられる。
短期的にはScope2の電力由来排出削減、中長期ではScope3を含めたサプライチェーン全体の最適化が求められる。
間接排出を正しく理解し、段階的に可視化と削減を進めることが、企業が持続的に脱炭素を実現するための鍵となる。
間接排出に該当するScope2・Scope3の全体像

Scope2|購入した電力・熱・蒸気による間接排出
Scope2は、企業が外部から購入した電力・熱・蒸気を使用することで発生する間接排出を指す。
排出そのものは発電所など企業の外部で発生するが、エネルギーを使用する主体として企業に排出責任があると考えられている。
電力使用量が多い製造業やオフィスビル、商業施設では、Scope2が主要な排出源となるケースが多い。
再生可能エネルギーの導入やPPA、非化石証書の活用によって削減効果を出しやすい点が特徴である。
Scope3|サプライチェーン全体で発生するその他の間接排出
Scope3は、原材料の調達から製品の使用・廃棄に至るまで、サプライチェーン全体で発生する間接排出を対象とする。
自社の外部で発生する排出が中心となるため、Scope1・2と比べて算定範囲が広く、管理の難易度も高い。
一方で、企業活動による実質的な環境負荷の大部分がScope3に含まれることが多く、脱炭素経営では避けて通れない領域となっている。
Scope3の15カテゴリと代表的な排出源
環境省ガイドラインおよびGHGプロトコルでは、Scope3を15のカテゴリに分類して整理している。
原材料調達、資本財、物流、事業活動に伴う廃棄物、出張、通勤、製品の使用段階、廃棄段階などが代表的な排出源である。
すべてを一度に把握することは難しいため、排出量が大きいカテゴリから優先的に算定・対応することが現実的な進め方となる。
多くの企業で間接排出が排出量の大半を占める理由
多くの企業では、直接排出よりも間接排出の方が圧倒的に多くなる傾向がある。
特に、製造業や小売業では原材料や物流、製品使用段階の排出が大きく、Scope3が全体の大部分を占めるケースも珍しくない。
このため、間接排出を無視した脱炭素施策では、実効性のある排出削減につながらない。
Scope2・3を含めた全体像を理解することが、企業の排出構造を正しく把握する第一歩となる。
間接排出の算定方法と実務の進め方
Scope2の算定方法(電力使用量・排出係数・算定基準)
Scope2は、購入した電力・熱・蒸気の使用量をもとに算定する。
基本は、検針データなどで把握した使用量に排出係数を掛け合わせてCO₂排出量を算出する方法である。
算定基準には「ロケーション基準」と「マーケット基準」があり、前者は地域平均の排出係数、後者は契約内容や非化石証書などを反映した係数を用いる。
再生可能エネルギーを導入している場合は、マーケット基準での算定が削減効果を正しく示すために重要となる。
Scope3算定の基本ステップとデータ収集方法
Scope3の算定は、まず対象とする15カテゴリの中から、自社に関係する排出源を特定することから始まる。
次に、原材料購入額、物流量、出張回数などの活動量データを収集し、排出係数を用いてCO₂換算を行う。
初期段階では、すべてを精緻に算定する必要はなく、排出量が大きいと想定されるカテゴリから段階的に対応するのが現実的である。
取引先からの一次データ取得が難しい場合は、統計データや推計値を用いることも認められている。
環境省ガイドライン・GHGプロトコルの活用
間接排出の算定にあたっては、環境省が公表するガイドラインとGHGプロトコルを併用することが一般的である。
環境省ガイドラインは、日本企業向けに排出係数や実務手順が整理されており、制度対応の基盤となる。
GHGプロトコルは国際的な共通基準であり、海外拠点やグローバル開示を行う企業にとって重要な参照枠組みとなる。
両者の考え方を理解し、整合性を保ちながら算定を進めることが求められる。
推計データと一次データの使い分け
間接排出の算定では、すべてを一次データで把握することは難しい。
そのため、初期段階では推計データを活用し、排出量の全体像を把握することが有効である。
一方で、主要な排出源については、取引先との連携やデータ共有を進め、一次データへの切り替えを目指すことが重要となる。
推計と実測を段階的に組み合わせることで、算定精度と実務負荷のバランスを取りながら、継続的な排出管理が可能となる。
間接排出を削減するための具体的アプローチ

再生可能エネルギー導入によるScope2削減
間接排出削減の中でも、最も取り組みやすいのがScope2に該当する電力由来排出の削減である。
再生可能エネルギーへの切り替えは、排出量削減効果が分かりやすく、社内外への説明もしやすい施策となる。
自家消費型太陽光発電の導入や、再エネ電力メニューへの切り替えにより、電力使用に伴うCO₂排出を大きく削減できる。
特に電力使用量の多い事業所では、Scope2削減が全体の排出削減に直結する。
PPA・非化石証書を活用した電力由来排出の低減
初期投資を抑えたい企業にとっては、オンサイトPPAやオフサイトPPAの活用が有効な選択肢となる。
PPAモデルを活用すれば、設備投資なしで再生可能エネルギーを導入でき、長期的な電力価格安定と排出削減を同時に実現できる。
また、非化石証書やトラッキング付き証書を活用することで、マーケット基準におけるScope2排出量を実質的に削減することも可能である。
電力調達方法に応じて、最適な手法を組み合わせることが重要となる。
物流最適化・調達見直しによるScope3削減
Scope3削減では、物流や調達に関する見直しが重要なポイントとなる。
輸送距離の短縮、積載率の向上、輸送手段の見直しなどは、比較的早期に効果を出しやすい施策である。
また、原材料の選定においても、低炭素素材への切り替えや、調達先の変更によって排出量を削減できる場合がある。
コストや品質とのバランスを取りながら、排出量の少ない選択肢を検討することが求められる。
サプライヤー連携による排出削減の進め方
間接排出、とりわけScope3の削減には、サプライヤーとの連携が不可欠である。
自社だけで完結する施策には限界があり、取引先と協力して排出削減を進める姿勢が重要となる。
具体的には、排出量データの共有、削減目標の設定、再エネ導入や省エネ施策の支援などが挙げられる。
サプライヤーと段階的に協働することで、サプライチェーン全体としての排出削減につなげることが可能となる。
業種別に見る間接排出削減の実践事例
製造業|電力転換と原材料調達の見直し
製造業では、購入電力に由来するScope2排出と、原材料調達に伴うScope3排出が大きな割合を占める。
再生可能エネルギーへの切り替えやPPA導入によって電力由来排出を削減すると同時に、原材料の調達先や素材選定を見直すことで、間接排出の削減効果を高められる。
特に、サプライヤーと連携して排出量データを可視化し、低炭素素材への段階的な切り替えを進める取り組みが有効とされている。
小売・流通業|物流・包装削減によるScope3対策
小売・流通業では、商品の輸送や包装、廃棄段階におけるScope3排出が中心となる。
配送ルートの最適化や共同配送の導入により、輸送に伴う排出量を削減できる。
また、過剰包装の見直しやリサイクル素材の採用は、コスト削減と排出削減を同時に実現しやすい施策である。
こうした取り組みは、消費者からの評価向上にもつながりやすい。
IT・サービス業|データセンター電力最適化
IT・サービス業では、事業活動に直接的な排出は少ない一方で、データセンターやクラウド利用に伴う電力由来排出が間接排出の大部分を占める。
再エネ電力の調達や、省電力型サーバーへの移行、稼働率の最適化によってScope2排出を効果的に削減できる。
クラウド事業者の脱炭素対応状況を考慮したサービス選定も、間接排出削減の重要な判断材料となる。
建設・不動産業|資材由来排出の可視化と削減
建設・不動産業では、建材の製造や輸送に伴うScope3排出が大きな割合を占める。
コンクリートや鋼材など、排出量の多い資材については、低炭素型製品への切り替えが有効な削減策となる。
また、建物の長寿命化や省エネ性能向上は、運用段階での間接排出削減にも寄与する。
資材選定から運用までを一体で考えることが、業界全体の脱炭素化につながる。
まとめ|間接排出の理解と管理が脱炭素経営を左右する
間接排出は、企業活動による実質的な温室効果ガス排出の大部分を占める重要な領域である。
直接排出(Scope1)だけに目を向けた対策では、脱炭素の実効性を高めることは難しく、Scope2・Scope3を含めた包括的な管理が不可欠となる。
電力由来排出の削減や再生可能エネルギー導入は、比較的取り組みやすい一方で、サプライチェーン全体に及ぶScope3の削減には中長期的な視点が求められる。
そのため、段階的に算定精度を高めながら、外部パートナーとの連携を強化していくことが重要である。
間接排出を正しく理解し、可視化・削減・開示を一体で進めることは、企業の信頼性や競争力の向上にも直結する。
脱炭素経営を本質的に進めるためには、間接排出を「見えにくい領域」として放置せず、戦略的に管理していく姿勢が求められる。
